論文紹介−神経幹細胞由来のiPS細胞

京都大学山中伸弥先生の発見以来、線維芽細胞だけではなく、組織特異的分化マーカーを発現し既に分化にコミットメントしている細胞由来のiPS細胞の報告がいくつかなされている。例えば、Bリンパ球細胞、神経幹細胞、肝臓細胞、胃細胞などから誘導されている。最近(2009年2月)、いわゆる4つの山中因子(Oct4、Sox2、Klf4、cMyc)のうち、Oct4を導入するだけで、成体の神経幹細胞からiPS細胞を誘導できるという発表(Oct4-Induced Pluripotency in Adult Neural Stem Cells)がマックス・プランク研究所のHans SchölerらによってCell誌から報告された。


iPS細胞誘導効率は、0.014%(10万個に14個)であり、これは、同じグループが以前Nature誌(Pluripotent stem cells induced from adult neural stem cells by reprogramming with two factors)に報告した値(Oct4とKlf4かcMycを導入した神経幹細胞由来iPS細胞)と比べ、約10倍落ちるが、マウス胚由来線維芽細胞と用いた場合とほぼ同程度であった。


この論文が強調している点は以下の4点である。
①マウスの成体神経幹細胞はOct4単独でiPS細胞に誘導可能である。
②神経幹細胞は、Klf4とかcMycのようなオンコジーンを使うことなくiPS細胞に誘導可能である。
③外来のOct4遺伝子5個の遺伝子挿入だけで、iPS細胞を得ることができた。これは、以前の報告よりも少なく、従って、外来遺伝子による挿入変異の確立を減らすことができる。
④神経幹細胞はSox2、cMyc Klf4および、ES/iPS細胞のマーカーであるアルカリフォスファターゼおよびSSEA1を発現しており、すでに部分的にiPS細胞に脱分化している可能性がある。従って、iPS細胞を誘導するのに神経幹細胞を使用することは、アドバンテージである。


一方、去年Stem Cellsにハーバードグループから報告された論文(Reprogramming of neural progenitor cells into induced pluripotent stem cells in the absence of exogenous Sox2 expression)では、上記の4因子とOct4・Klf4・cMycの3因子で神経幹細胞(生後のマウス脳由来)からiPS細胞を誘導している。この論文は、Nestin-Cre/ROSA26RのLineage Tracerシステムで、iPS細胞が神経前駆細胞由来であることを証明している。また、4因子を使用した際の効率は0.0002−0.0008%(100万個に2−8個)で、3因子を使用した場合は0.001−0.002%(10万個に1−2個)となっており、この系ではSox2がむしろネガティブに働いていることを示唆している。


今後、分化細胞した細胞由来のiPS細胞の作成の報告が、続々と出てくると考えられ、それらのiPS細胞間で、分子・細胞生物学的な性質の違い、とくにエピジェネティカルな違いがあるのかどうか興味ある問題である。

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