哺乳類特異的遺伝子、オポッサム


有袋類のオッポッサム(Opossum、フクロネズミ)の写真。Wikipediaより引用


 またまた、遺伝子進化のトピックだが、私のラボで、最近クローニングした遺伝子で、遺伝子データバンクで、どうやって調べても、哺乳類にのみ存在している、そんな遺伝子がある、ということを、数日前に少しだけ紹介した。霊長類、げっ歯類、犬、牛などだけでなく、カモノハシ(単孔類)、オポッサム有袋類)でも存在しているが、ニワトリなどの鳥類、ゼノパスなどの両生類、フグ・メダカ・ゼブラフィッシュなどの魚類ではまだ見つかっていない。この遺伝子はファミリーを作っていて、全部で5種類あるのだが、4種類までは、魚類から哺乳類まで存在しているのに、最後のひとつだけがどうも、哺乳動物特異的らしい。らしいとあいまいなのは、ゲノムプロジェクトは95%くらい完成させることはできても、最後の5%を確定させるのは非常に困難を伴うからである。したがって、まだ脊椎動物の非哺乳類から、そのうち配列が報告されるかもしれない。このような、哺乳類特異的遺伝子というのはいくつか存在しているようだ。私の見つけた遺伝子は、ファミリーを形成しているので、1個多かろうが少なかろうが、機能が重複しているかもしれないので、あまり意味がないのかもしれない。それでも、意味があるといいなと、いろいろ考えながら、何とか論文にしようと思っている。今までいろいろな分野に足を突っ込んできたが、進化・発生生物学いわゆる、エボ・デボ(Evoloutionary Developmental Biology)が一番わくわくする。ちょっと研究費の申請には、あまり使えないのだけど。

 ちなみに、有袋類って、子供が胎児のまま生まれてくるので、特にオポッサムとか、ネズミサイズで、哺乳類の発生工学で非常に使いやすいと思うのだが、希少動物扱いだからだめかな。でも、よく調べると、オポッサムって有袋類でオーストラリア産かと思ったら、なんと南北アメリカ由来じゃないですか。しかも実験でけっこう使われている。オポッサムの全ゲノム配列も去年のNature Articleで報告されている。

Natureの日本語版:http://www.natureasia.com/japan/nature/updates/index.php?issue=7141
Natureの英語版:Genome of the marsupial Monodelphis domestica reveals innovation in non-coding sequences | Nature
 しかも皮膚がんの黒色腫のモデル動物として優れているそうだ。予想される遺伝子の数は、先日紹介したカモノハシと大体同じ18,000から20,000位だそうだ。ヒトとマウスは最初30,000位って言われていたのだが、よく調べると、タンパク質に翻訳される可能性のある遺伝子だと22,000種類という数字も出ている。これだと、カモノハシ・オポッサムとほぼ近いし、線虫(C.elegans)の遺伝子数19,000とも同じくらいだ。遺伝子からすると、線虫もヒトも大差ない。また、これらの遺伝子をコードしているDNAは、全体の2%にすぎないが、ノンコーディングRNA(ncRNA)として転写されているDNAは、かなりの領域(70%)になるそうである(Antisense Transcription in the Mammalian Transcriptome | Science)。またこれらのncRNAにはいろいろな生物学的機能を有しているそうで、まだまだ、本当にわかっていないことが多い(多くは、ダブルストランドRNAとして機能しており、ターゲット遺伝子の発現調節しているらしい)。

 何とかオッポッサムを手に入れてみたい。繁殖は大変なのだろうか。